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『ツダマンの世界』レビュー

2022.12.23

唐突に原稿の修正依頼、それもかなりの大工事なやつが舞い込んできて、絶望を感じた土曜日の昼間のことです。
原稿の修正は普通のことなので別にいいのですが、今回に関しては完全に自分の確認不足によって発生した事故でした。自業自得です。

その日は夕方からBunkamuraシアターコクーンで上演されていた『ツダマンの世界』を観に行く予定でしたが、正直悩みました。
観劇中も上の空になりそう。集中できなさそう。
この時間を使って、仕事をしたほうがいいのではないか。

1分くらい悩んだふりをして、ちゃんとシアターコクーンに行きました。

焦ってもまた事故るだけなので、こういうときは全然関係ないことをしたほうが、かえって仕事がすすみます。
結果、観に行って本当によかったなと思うお芝居でした。

『ツダマンの世界』は、松尾スズキさんの新作劇です。
「笑いのしたたる、狂気のメロドラマ」と単行本の帯には書いてありますが、本当にそのとおり、狂気のメロドラマでした。ほかに言いようがない。

阿部サダヲさんを主演に、間宮祥太朗さん、吉田羊さん、江口のりこさん、皆川猿時さんら、豪華キャストが勢揃いした舞台は、とても華やかでした。

なお、今回もコクーンシートで見たので、下手が死んでいました。

身を乗り出しすぎると、隣の人に迷惑なので、ぐっと我慢しました。そのため下手の芝居は一部見えていません。コクーンシートは安いけど、舞台の内容によってはこうしたデメリットがあります。

あらすじをスペシャルざっくり説明すると、
ツダマン先生こと、違いはわかる小説家・津田万治は、一体どういう人物だったのか。を、3人の幽霊が回想する形で説明していくという物語です。
私はそう解釈しましたが、全然違う話しだったらすみません。

阿部サダヲさん演じるツダマンは、空洞のような男で、みんな彼に振り回されてしまいます。間宮祥太朗さん演じる弟子の葉蔵とは、信頼もあり憎しみもありの、歪な絆で結ばれている。そこに妻や、ライバルの小説家などが入り乱れて、いろいろ織りなす……早い話が面白かったです。

ぶっ飛びつつも、考えさせられるお芝居は、仕事の失敗をどうでもよくさせてくれました。
よかった、ツダマンより私はマシだと思えたのです。ありがとうツダマン。

面白ポイントはたくさんありましたが、冒頭の霊能者(阿部サダヲ)とホキさん(江口のりこ)のやり取りからもう笑えました。
江口のりこさんがはまり役過ぎてて、すごかったです。
間宮祥太朗さんの、こんなやつ身近にいたら嫌だなぁ感もすごく良かったし、皆川猿時さんの手がベトベトのくだりもお腹痛かった。

でも一番笑ったのは、後半の儀太郎が出てくるシーンで、「なに!?」という台詞の「な」と「に」の間で気絶するところでした。
文字にしても全然意味がわかりませんが、ほんの一瞬のシーンなのに、なぜか印象に残っている。
焦って仕事をしていたら、「な」と「に」の間で気絶するシーンも見ることはできなかったので、観に行けてよかったです。

元気をくれた作品だったので、パンフレットに加えて戯曲も買いました。
現金払いオンリーだったので、財布から小銭をかき集めて支払いました。
なんと松尾スズキさんのサイン入りです。

余談ですが、松尾スズキさんとは15年ほどまえに下北沢の本多劇場の流しで鉢合わせたことがあります。
当時、本谷有希子さんの『来来来来来』という舞台のボランティアスタッフをしていたのですが、たしか千秋楽に、松尾さんが観に来ていました。
終演後、ロビーで乾杯したあと、流しで洗い物をしていたときに空いた缶ビールを持ってきたのが松尾さんでした。その場で受け取ると「ありがとうございます」と言って去っていかれましたが、大学生だった私は、「松尾スズキと一瞬だけど喋ったぞ」という達成感でいっぱいでした。

翌年2010年、松尾さんが演出した『農業少女』を観に東京芸術劇場に行った際、目の前の席に松尾さんが座っていました。
「去年お会いしましたよね」などと言うはずもなく、後頭部を眺めていただけでしたが、いまだに覚えています。
一緒に観に行っていた当時の彼氏に、「目の前にいるの、松尾スズキだよ」とこそっと話したら、「俺、有名人見ても別に何も思わないんだよね」と返されて、イラッとしたことも鮮明に覚えています。つまんねぇ返ししやがって。

東京公演は終わりましたが、ロームシアター京都では12月29日まで上演されているそうなので、お近くにお住まいの方は観に行かれるといいと思います。いい年末を過ごせそうです。

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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